校長のことば

第49回 卒業証書授与式 式辞【R7.3.18】

 厳しい寒さも幾分やわらぎ、暖かな日差しを受け、美しい花々がここ木曽呂の地を彩り始め たこの良き日に、PTA会長 木村卓史様、後援会会長 伊藤洋二様、同窓会常任理事 戸嶋康人様の御来賓をはじめ、多数の保護者の皆様をお迎えし、第49回卒業証書授与式を挙行できますことは、私たち教職員にとりまして、この上ない喜びでございます。

 ただいま卒業証書を授与いたしました356名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんは3年前の令和4年4月に、大いなる理想を抱いて本校の門をくぐりました。その頃は、まだコロナ禍による制限がいくつもあり、本来の学校の教育活動とは ほど遠い状況下での高校生活のスタートだったと思います。しかし、そんな中でも、皆さんは本校が目指す「高いレベルでの文武両道の精神」を胸に抱き、良く学び、厳しく自分を鍛え、川口北高校で大きく成長してきました。その結果、素晴らしい品格と幅広い教養を身に付け、本日、晴れて卒業の日を迎えました。このことは、皆さん一人ひとりの努力の成果ではありますが、同時に皆さんを温かく見守り、支えてきた御家族や友人たち、先生方、御支援を頂いている多くの皆様のお蔭でもあります。今の自分がこの卒業の時を迎えられるのは、こうした方々の支えがあってのことだと感謝し、一人ひとりの記憶に刻んでください。

 次に、保護者の皆様に申し上げます。本日は、お子様の御卒業、誠におめでとうございます。コロナ禍で始まった高校生活でしたが、立派に成長し、卒業の日を迎えたお子様の姿に、お喜びも、ひとしおのことと存じます。これまで、本校の教育活動に寄せられました皆様の深い御理解と御支援に対し、改めまして厚く御礼を申し上げます。

 さて、卒業にあたり、49期生への餞とする話をいたします。ひとつ目は、ノーベル生理学賞・医学賞を受賞した山中伸弥さんのエピソードについてです。山中先生は若い頃、整形外科で研修医をしていた時、うまい人なら20分で終わる手術を2時間もかかってしまい、それがきっかけで、当時の 鬼のように怖い指導医からは「山中」ではなく「ジャマナカ」としか呼んでもらえなかったそうです。周囲の先輩たちからは「研修医なのだから上手くできなくて当たり前だ」、また「名前をいじるのは完全にいじめだ」などという優しい言葉をかけてもらったのですが、辛い現実から逃げたくなってしまい、臨床医ではなく研究者の道に進もうと決心をしたそうです。そこでまずは、大学院に入りなおして「薬理学」という薬の研究を始め、その後、研究者としてアメリカに留学し、「血液の研究」を始めました。とにかく我武者羅に、人の三倍は働くようなハードワークをしていた時の話ですが、「動脈硬化」に影響を与える遺伝子を調べていたところ、たまたまその遺伝子が「癌」を作っていたことが分かりました。普通の研究者なら「常識」という目に見えない壁を作って「これは自分のテーマである血液には関係ない」といって研究をやめることが多いそうです。しかし、山中先生は、予想外の結果にたいへん興味を持ち、まだ何の実績も出していない若い研究者が「面白いから」という理由だけで「癌」の研究を始めました。そこで新しい遺伝子を見つけ、それが今のES細胞、iPS細胞に繋がったそうです。山中先生自身、「自分にはあまり独創性がない」と謙遜していますが、それでもiPS細胞にたどり着いたのは、思いもよらない結果が出たときに実験をやめなかったこと、そして研究者の中でもiPS細胞そのものの存在は意識する者はいましたが「難しすぎてやっても無駄だろう」と実際にチャレンジをする人が少なかったとも言っています。もちろん人がやらないことをやったからと言って、必ず結果が出るわけではありませんが、科学を心の底から楽しんでいる人たちに、科学の神様が微笑んだのかもしれません。 

 皆さんにはこのエピソードのように、たとえ何かに失敗しても自分の可能性を信じて、チャレンジをすること、一方で知識だけを詰め込んで賢くなることよりも、自分がやりたいことを探り、究めていくこと、つまりこれが探究ということになりますが、粘り強く、志高く、探究的な学びを続ける人であってほしいと思います。

 二つ目は、卒業していく皆さんへの餞というよりも、ほんの少しだけ辛口の話をしたいと思います。学校の先生はよく、卒業する生徒達に向けて「いつでも遊びに来いよ」という言葉をかけることがあると思いますが、私の持論は少し違っていて、「学校に来るな」とまでは言いませんが、そんな暇があるのは「今が充実していないから」ではないかと考えています。本日、卒業する皆さんは、若く、たくましく、たくさんのエネルギーと可能性を持って未来に向けて羽ばたいて行きます。そんな皆さんには、過去を振り返るのではなく、日々刻々と変わる新しい世界で、思う存分に活躍をしてほしいと思っています。過去を懐かしむのは、もう少し年を取ってからで十分ですし、それ以上に今を生きていく上で大切なことが、きっとたくさんあるはずです。自分が置かれた環境をより良くしたり、もしも居心地が悪いのならば、自分の力でその環境を変えるくらいの気概を持ってください。皆さんのこれからの長い人生では、誰かの後に付いていくのではなく、自分の力で道を切り開き、成長を続ける人であってください。49期生には、目には見えないかもしれませんが、この3年間で培った「絆」という大きな財産があります。それを精神的な支えとしながら、4月からの新天地での充実した生活を送れるように願っています。

 最後になりますが、生徒の皆さんはすでに、私が本校の7期の卒業生であることは、知っての通りですが、わが母校である川口北高校はその黎明期の頃から、常に前向きな姿勢で、物事に真面目に取り組み、たとえ失敗したとしても簡単には諦めず、粘り強く頑張れる生徒たちを育ててきた学校です。そして、18000余名の同窓生の諸先輩方が、そのバトンを繋ぎ続け、半世紀にわたる歴史と伝統の中から、今の校風を創り上げてきてくれました。49期生として入学した皆さんも、いよいよ明日から同窓生の仲間入りです。多くの同窓生が川口北高校の卒業生であるというプライドを胸に、社会に出て頑張っています。皆さんも大きな夢を持ち続け、輝く未来と自らの可能性を信じて、今まで以上に熱く、何事にもチャレンジを続けられるよう、頑張ってください。

 結びに、本日、御臨席を賜りました御来賓の皆様にお礼を申し上げますとともに、卒業生一人一人の将来に幸多からんことを心から祈念して式辞といたします。

 

 令和7年3月18日

                     埼玉県立川口北高等学校長 高松 健雄